Climbing Mate Club

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Chronicle

鹿島槍・荒沢北壁CMCルート開拓

アックスイメージ
メンバー 馬目弘仁 乃村昌広 佐藤映志
日程 2004年 3月12日〜13日
記録 馬目

1. はじめに

「山に行きたいなあ.......雪の峰に。」今の気持ちはそんな感じ。このところ3月は鳳来か二子ばっかりだったのに、無性に鹿島槍に行きたくなる年ってあるものだ。

 例え見栄えや内容がいま一つであろうとも「ルートファインディングの楽しさ」を堪能できる未踏のルートに行きたいなあと思って資料を丹念に調べた。(やはり一番魅力的なのは正面尾根Dリッジ。これは黒田さんとの約束があるので今回はパス。)目に付いたのは荒沢の北壁だった。これはかなりの際物だ。自分の記憶にある北壁は「暗くて危ない雪壁」というイメージなのだが.......。記録上は、1968年5月に拓かれた昭和山岳会ルートがあるのみで冬期はおろか第2登すらされていない。35年もの記録上の空白かぁ......それだけ危険で魅力が無いということなのだろう。そうに違いない。

 数日間あれこれ考えを巡らせているうちに登ってみる踏ん切りがつき、当会の佐藤さんと乃村さんを誘った。さて、あらためて荒沢北壁の資料を読み返してみるが、「ヒマラヤひだに覆われた壮絶な氷雪壁」といった様なことしか書いてない。とにかく行ってみないことには始まらない場所らしい。

2. 登山活動報告

3月12日、大谷原7時出発、一昨日の降雨のおかげで雪面が良くしまっている。上部の状態もこうあって欲しいものだ。天狗の鼻には13時30分着。途中、天狗尾根の第1クロワール手前で北壁を良く観察した。なんとなく潅木らしきものが多数確認できたのが救いだ。ビレイアンカーはなんとかなるかもしれない。3人とも幾分前向きな気持ちになった。何かの拍子にパーティー全滅なんて洒落にもならない。傾斜も思った程なさそうに見える。ただし壁の中でのビバークは非常に危なそうだ。絶対に一日で抜けようと決意する。あそこは降雪があったら絶対に雪崩地獄と化するに違いない。さて、この晩は初めて作ってみたイグルーに収まり早々の就寝。

13日、天狗の鼻5時出発。最低コルから右俣を本谷まで降りてゆく。割合にもぐる雪質が少し不安だが、天気は快晴、日が射してくると本当に気持ちがいい。登攀が始まってもいないのに「山はいいなあ。」としみじみしてしまった。汗だくになって右ルンゼを詰める。本谷から見上げる北壁は昨日遠望した時よりさらに傾斜がゆるく見える。「これは登れるねぇ!」が取りつき前の私達の印象だ。登攀ラインをどうするかよくよく観察した。私達は、北壁の初登ルート(昭和山岳会ルート)はあまり意識せず、その場での自分達の感性で自由にルート取りをしようと考えていた。

取付点:北稜末端を過ぎ、菱形岩壁下方の右側より岬状にのびている小リッジを右から回り込んだところに出ている小さな露岩を取付点とした。北壁の下から1/3くらいに位置する顕著な凹角状の右側(昭和山岳会ルートはこの凹角を通るのかもしれないが詳細は不明)、幾分リッジ状にふくらんだ岩場混じりの部分をたどるのがもっとも合理的と考えた。菱形岩壁寄りのラインはどうにも岩がボロボロに見えて問題外だし、リッジ状のさらに右側は上部にキノコ雪が連なっていて日射を浴びる昼間はとても危険そうだ。

1P,35m:露岩に軟鋼ピトンを打ってアンカーを作る。穏やかな晴天になごみながら6時30分登攀開始。リッジ状を登るが、見た目よりもラインが複雑で悪い。キノコ雪に乗りこんで小ハングから垂れる潅木を使ってビレイ。軟鋼ピトンがどうしても抜けず1本残置してしまったことが残念だ。この岩はクロモリ鋼では壊してしまいかねない感触だった。

2P,40m:強引に潅木をつかんでハングした岩を越え、急傾斜の悪い雪壁に出る。部分的に嫌らしいダブルアックを交える奮闘的なピッチだ。あまりの傾斜のためフォローは途中からユマーリングに切り替えた。以後全ピッチ、ユマーリング。北壁は所々に丈夫そうな潅木が生えているのでビレイヤーとしては精神的にかなり楽だ。少なくともビレイアンカーは丈夫なものが使えた。

3P,45m:リッジ状はヒマラヤ(?)ひだの連なりに飲みこまれてしまい壁全体の見通しが悪くなる。スロープ状を快適にダブルアックス、そしてハングした潅木登り。この潅木登りが猛烈にパンプする。下地が岩だったりするとまさに腕力登攀だ。このピッチは雪面に食い込むロープがやたら重かった。ランナーは長い方がよさそうだ。

4P,50m:潅木が途切れてしまい猛烈なランナウトに耐えての不安定な雪壁クライミングだった。やっと潅木に手が届いた時は「助かった!」とため息が出てしまった。このピッチは60度位あるだろうか。取付点で予想した以上に傾斜があった。途中からヒダをまたいでスロープを登った。この頃から小雪が舞い出した。天気予報より早い。

5P,45m:右上気味にロープをのばす。ここからは幾分傾斜が落ち、丈夫そうな潅木の数が多くなる。まだまだ先は長いかなと思っていたら突然に天狗尾根に抜け出た。天候は激しい吹雪でホワイトアウトしていて乃村さんに言われてもすぐにはここがどこだか分からなかった。12時30分登攀終了。とにかく終わってめでたしだ。これで余程のことがないかぎり今日中に降れると思うとホッとした気分になった。
 ホワイトアウトがさらに酷くなってきたため早々に下降した。天狗尾根の鼻まで1時間30分も要した。天狗の鼻からの下降にも相当数のスタカットをして慎重に下山した。

3. おわりに

 今回の登攀はそれなりに満足いくものだった。短いながも純日本的雪壁登攀を充分堪能した。またトポに惑わされることなく自分達であれこれ考えて登るのも楽しいものだ。
 荒沢北壁のど真ん中で悪天につかまれば大変なことになるなあとあらためて思う。短いルートでもあるしスピード重視は必然だ。アンカーはしっかりした潅木で取れるのでいわゆる雪壁登攀特有のプレッシャーというものは少ない。「アンデスのトレニーングにいかが?」と言ったら皆登りにくだろうか?たぶん来ないだろうなあ.......。以上

4. 使用クライミングギア

  • 9mm・50mロープのダブルロープ
  • スリング類が25本位
  • ロックピトンはアングル、薄刃の軟鋼ピトン×1、アイスフック×1
  • トライカム№1×1
  • アックス類はアイスクライミング対応のシャフトがノーマルなタイプ
  • アイゼンはトラディショナルな12本爪

* ロープは長めが、長いスリング類が多い程が便利。 チョック類は不要かもしれない。スノーバーとデッドマンは持参したが北壁では未使用だった。

余談

 翌週の20〜21日に黒田さんと北壁正面尾根Dリッジにチャレンジした。結果は約2P程のばした先で敗退となった。ピトンを全く受けつけない岩に途方に暮れてしまった。また修行してから出直してきます。