Climbing Mate Club

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海外登山の勧め2

山岳会 クライミング・メイト・クラブ 永沢 栄

2.海外登山に行くには (行くためのノウハウ 1)

 ドロミテいかがでしたか? 「良さそう!」と思っていただけましたか? でもそんな事、行って見なきゃ判らないんです。良いかどうかは行く人の感性、そう行く人の問題なのです。
 良いかどうかは行く人の問題として、では行くにはどうしたらよいかお話しましょう。まずその前に、私がどこへ行っているか自己紹介しておきましょう。

ネパールの少女
ネパールの少女

 最初の海外登山はネパールから始まりました。24歳の時でしたから今からもう31年も前のことです。もちろん初めてで敷居も高く、一人で行くなんて勇気もありませんでしたので、ちょうどその時カトマンズに居た安倍泰夫先生に相談してランタン谷へ行きました。飛行機もツアーにもぐりこませてもらいました。4000mに入った初日に走り回って高山病の洗礼を受けたものです。安倍先生、そうです今ではネパールの植林で有名ですが、この時トリスリで出会った少女ドルガが先生の人生を変え、現在の植林のきっかけになったのです。
 その後ネパールに7回、韓国に1回、中国に2回、フランスに3回、スイスに2回、ノルウエーに1回、そしてイタリヤに8回も行ってしまいました。中国(第2回日中合登研:訪中1回目、第1回チベット岩登り研修)に行ったのは偉大な先達者吉沢一郎さんが長野県に居たからです。韓国では、岩場のたまり水を飲んで赤痢にかかってしまいました。モンブランの頂上では、一緒に来るはずが、前年に冬山で亡くなった友人の写真を埋め、涙を流しました。これを書いていてもいろんな思い出が浮かんできますが、登山そのものよりも、登山にかかわった人々や、登山の文化の方が多く心に残っています。そう、私がこれ等の登山で得たものは、外国の文化、物の見方、人の考え方だったのです。

 さて本題に入りましょう。もうお気付きのことと思いますが、海外登山だからと言って特別なものではないのです。日本における登山と同じなのです!
 皆さんは、日本で登山に行く時どの様にして行っていますか? ガイドブックや山岳雑誌の記事を見てですか? もちろんこれ等の記事は良いきっかけにはなりますが、それだけで登山に行っているわけではないでしょう。もちろん個人的な功名心もあるでしょうし、知らない所への興味もあるでしょう。でも、たぶんその前に、無意識のうちに、休みが何日取れる、お金がいくら掛かる、誰が一緒に行ってくれるか、と計算しているはずです。
 そうです、この無意識のうちにやっていることをやれば良いのです。日本で1ヶ月かけて登山をしようとしない人が、なぜ外国なら1ヶ月2ヶ月かけて登山をしようとするのでしょうか? そんなことを考えたら出来る訳無いでしょう!
 1週間しか休みが取れない(時間が取れない)なら、1週間で行ける良いところを探しましょう。2週間取れるなら2週間で行ける良いところを探しましょう、1ヶ月取れるなら1ヶ月で行けるところを探しましょう、2ヶ月取れるなら、1年取れるなら・・・。1週間も取れないなら5日で、5日もだめなら3日で、3日もだめなら日本でも山には行けないでしょう。
 「3日で行けるんかい?」と言う声が聞こえてきそうですが、韓国なら飛行機でたった1時間。3日で十分でしょう! 「たった3日ばかり行ったって。1月位じゃなきゃ海外登山じゃないさ。」そんなこと考えていたら一生行けないでしょう。3日を10回やれば30日でしょう、立派な海外登山じゃないですか。

トロールベッケン
トロールベッケン

 もう一度言いましょう、「日本で1ヶ月かけて登山をしようとしない人が、なぜ外国なら1ヶ月2ヶ月かけて登山をしようとするのでしょうか?」。外国なら何か出来る、そんなのは妄想です。外国と比べ条件的にはるかに恵まれている日本で出来ないことが、条件の悪い外国で出来るわけがないでしょう。「未踏峰に登れる。」なんて言って、地元の人がしょっちゅう行っている丘の上に登攀するのが落ちです。ただ、外国だから、現実が伝わらないから、ごまかして良い格好しているだけで、判っている人にはすぐバレル。「それでも良かった良かった、花を見れたし雄大な景色を見れて。」そうです、花を見れたのです、雄大な景色を見れたのです。それなら最初から花を見に行きましょう、雄大な景色を見に行きましょう、そうすれば選択肢は大きく広がります。
 3日行ければ、5日行けるようになります、5日行ければ1週間というように、日本の登山と同じように進んでゆけるものです。

もっと具体的に考えて見ましょう。

5日で行ける海外登山

 韓国、台湾:どうしても近くになりますが開放感、爽快感は同じです。

1週間で行ける海外登山

 タイ、ベトナム、ネパール、シャモニー、ツェルマット、ドロミテ:高度順化の要らない、交通手段の発達した文明国なら結構行けるし、文化も感じ取れる。ただし、アルパイン登山が確実に出来るのはドロミテだけ(天気が良い)。

2週間で行ける海外登山

 シャモニー、ツェルマット、ドロミテ、ヨセミテ、ニュージーランド、ノルウエー(トロール)、グリーンランド、カナダ、ネパール、インド5000m以下:高所に滞在しないところならたいてい大丈夫。交通手段の発達した文明国なら結構充実します。ネパールやインドでは実質1日か2日の登山になってしまうかも。天候の悪いフランス、スイスも結構厳しい。

1ヶ月で行ける海外登山

 スイス、フランス、北米、南米、ネパールヒマラヤ、インドヒマラヤ、カラコルム、チベット、中国:高度順化の要らない所なら結構充実した登山ができます。高度順化には2週間はかかりますので、登山内容は2週間でいける海外登山と同程度のことしか出来ません。

2ヶ月で行ける海外登山

 8000mまでならたいてい大丈夫。:本当のアルパインクライミング(冒険を伴った登山)が出来ます。こんなに休んだら人生自体が休みに成っちゃうかも。

1年で行ける海外登山

 どこでも大丈夫。:でも確実に人生が狂います。

 どうですか、結構行けますね。これを見ているといくつかのステップが有ることに気づかれるでしょう。
 2週間までが最初のステップ。アルパインクライミングをしようと思うとなかなか厳しいが、ハイキングやスポーツクライミングなら十分楽しめます。昨年、7日間でドロミテに行ったYさんは、日本のようにシャカリキ登っているのと違い、上手い人も下手な人も、皆が楽しそうに登っているのに気づかれたようです。これが登攀の文化のある国なのだと解ったようです。

トファナディローデス山頂
トファナディローデス山頂

 2週間から1ヶ月が次のステップ。私が休める限界はこの程度です。これだけ有れば、高所登山も可能になります。2週間で、ネパールのガンジャラチュリ(5800m)に登りましたが、登山靴を履いたのは1日だけでした。ドロミテなら、2週間有れば5〜6本程度のV、VI級ルートが登攀可能です。西部アルプス(シャモニー周辺)では、運良く天気が良ければ1〜2本のルートが登れるかもしれません。でもやはり1ヶ月はほしいでしょう。1ヶ月で高所登山をしようと思ったらポピュラーな所(困難でも多くの人がその周辺に行っている所)で、高所順化に精通している人に限られます。
 2ヶ月あれば、ほとんどの制限が外れます。8000mも登れますが、V、VI級ルート(高度差500~1000m)を40〜50本などというのは如何ですか? こう云うのを登りまくると言うのでしょう。でも、社会的制裁(何せこの期間社会に貢献していないのですから)が厳しくなります。