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登山中の低体温症を防ぐには

長山協医科学委員,医師 浅野 功治

 低体温症は、直腸温等の中心体温(腋下温ではない)が35℃以下になり、人体が正常に機能しなくなる状態です。熱産生より熱放散が大きくなると生じます。冬以外の季節でも起こり得ます。

 体外への熱放散は、

  1. 放射(赤外線として)
  2. 伝導(触れているものに伝わる.例えばビバーク中雪に直接座れば促進.空気への伝導は風による対流で促進.)
  3. 蒸散(汗の気化による.雨で濡れても促進)
によります。
一方、熱産生は食事と筋肉運動(震えを含む)によります。

 低体温症は予防が最も重要です。何より悪天時は行動を控えることです。熱放散を防ぐには、既述の熱放散を促進する要素を除くことです。
 良質な防風着上下,中間着,シャツ,ズボン,下着,靴,靴下,手袋,帽子で、全身を保護し、体の周囲の動かない空気の層を厚くすることが大事です。一方、不必要に汗で濡れないように、こまめに衣類を着脱し調節するのも大事です。
 筆者の場合は、冬山なら、中間着として厚手の羽毛服やフリースジャケット1着ではなく、薄手のセーター1着と薄手の羽毛服上下1組を持参し、適宜着脱します。防風着は防水・透湿性ともに高いものにします。
 また、随時行動食を摂取します。テルモスの温かい飲料は個人装備にします。酒・タバコはいけません。

 意識は正常でも、寒気・震えが始まり、細かい手の動きに支障をきたすようになれば、低体温症の前兆です。この段階を見過ごしてはダメです。ただちにテントや小屋に避難して暖房し、乾いた衣服に替え、寝袋に入って保温しましょう。
 中心体温が35℃以下になると、震えが最大になり、意識・精神活動の異常が始まり(無関心で消極的な態度,眠気)、口ごもり、よろめきがみられ、他のメンバーについていけなくなります。この軽症の段階までなら、保温のみで回復可能です。カフェイン飲料,酒は厳禁です。

 中心体温が32℃以下の重症になると、意識・精神活動の異常が進み(防寒の努力を放棄,健忘,錯乱,すぐ眠り込む,命令に非協力,等)、起立・歩行は不能となります。また震えは逆に消失します。ただちに救急医療機関に送らねばなりません。
 この重症低体温症の段階では、乱暴な扱い,マッサージ,本人による移動や着替え等の体動は、致死的不整脈を誘発し得るので、安静にさせます。重症低体温では、体表からの積極的な加温は、致死的不整脈や再加温ショックを誘発し得るので、山ではしない方が安全です。しかし、保温のみで2時間程経過しても回復傾向がみられず、すぐに救助される見通しもない場合は、即席湯たんぽ(火傷に注意)を四肢の付け根の体幹部(鼠径部や腋下)だけにあてて、少しずつゆっくりと加温を試みるのもやむを得ないでしょう。四肢末端側や体表全体の加温や、急速な加温は厳禁です。