Climbing Mate Club

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立木の利用

文 馬目

 林業では架線集材の支点として頻繁に立木を使っている。その際の基準は胸高直径30センチの木で1トン(運用荷重)としている。亜高山帯以上の山ではそんな立派な木が都合良く生えているとは限らない。立木の限界強度はいったいどれ位だろうか?その難題に取り組まれた群馬岳連・山岳救助隊の西山年秋さんは多くの実測から目安となる数値を導き出しておられる。根元の直径が10センチあれば概ね1トンの静荷重に耐えられることを示された。そしてその支持力は土質や場所に左右されることも指摘している。降雨で地がゆるんだ場合や砂地では根をおさえる力が弱い。斜面では根は山側方向に広く張るので谷側荷重で使った方が強い。豪雪地帯に見られる根曲がりした木も同様だ。幹の太い立木ほど強いと言えるがその源になる根の張り具合は枝張りに比例することも頭にいれておくとよい。細い木(4cm以下)を束ねるよりも一本の太い木(10cm以上)を使う方が概ね支持力は高い。樹種による違いもある。林業の現場で痛感することだがカラマツやシラカバ(浅根性の樹木)は折れるまえにひっくり返ってしまう。表土の浅い高山帯ではできるだけ根元に荷重した方が無難だ。岩壁のクラックによく繁るツツジ類も根が浅いので要注意。クライミングや救助の現場ではとにかくそこに在るものを使うしかないのが現実だろう。それでも選択の余地が幾らかでもあるならば慎重に選ぶように心がけたい。

 さて立木だけでなくススキや笹といった一見頼りないものも技術と経験があればしっかりした支点となる。西山さんはススキを支点に負傷者の搬送を行った経験がある。束ねたススキは50キロ弱しか耐えられないがそれらを幾つか分散荷重して使えばロワーダウンに十分な強度を発揮してくれる。笹類は地下茎で互いに連結しているのでその引き抜き強度は驚くほどだ。ハイマツも伏枝更新をしているのでかなり強い。要は折れてしまわないように引き抜き方向にうまく束ねることだがその方法は「重要な登攀技術」である。クローブヒッチを幾重にも重ね、そして縦に巻きを入れてやるとそれが楔となってとすっぽ抜けが防げる。