Climbing Mate Club

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「森林」

文 馬目

 林学では「森林」というものは樹木だけではなくそこに生きる全ての動植物や土壌などを含めて考えられている。例えばそこに岩場があるとすれば当然ながら森林に含まれることになる。

 ゲレンデとして知られる岩場の多くが実は森林の中にある。「岩場は誰のものか?」この問いは、そこを利用するクライマー間の倫理的側面から発せられる場合が多かったように思う。だが実際は森林所有者のものである。 森林の所有形態を大きく分けると、国と民すなわち国有林と民有林となる。国有林は文字通り国のもの。一方の民有林はなかなかバラエティーがある。まず地方自治体が所有する公有林(県、市町村)と私有林(個人有、共有、法人有)がある。私有林の中には、土地の所有権と林産物(樹木や山菜、キノコ類等)の所有権が異なる場合もある。キノコの止山のように入札によって入山権が取引されている森林などがそうだ。また分収契約による共同出資によって育林されている森林もあり、これは林産物の収穫の際に収益を分け合う。多額の収益をあげるマツタケ山(マツ林)では所有者によって厳しく立ち入りが制限されていることがほとんどで、入山しただけで犯罪行為として警察に通報されてしまうこともありえる。一般の歩道から離れて森林に入る際には配慮することが必要だ。人との関わりが密な森林ほど何がしかのマナーを求められるのは、世知辛いと思われるかもしれないが、それだけ生活と密接なものと考えたい。

 近代の森林行政の反省点は、森林の持つ機能の一部(経済的価値≒木材生産)だけを発揮させようと考えすぎてしまったことだ。その価値が下がったと思い込んだ時に極端な無関心を引き起こし、無視と無知を生んでしまった。そしてそれは森林荒廃の引き金になってしまった。

 いま、「森林リクリエーション」という言葉がある。クライミングも当然ながらこの森林リクリエーションに含められる。そもそも森林(岩場)がなければ始まらないのがこのスポーツだ。私たちクライマーは積極的な森林利用者であることをもっとアピールしてもいい。利用することからのみ心のこもった関心が生まれてくる。私たちはこれからも岩場の樹を傷め、コケを落とし、新たな踏み跡をつくってしまうのだろう。だからこそ単一の目的(クライミング)に捉われて森林(岩場)の価値を考えてはならないし、他の価値観に無関心でいてはならない。このことが岩場の永続的利用を志向するに大事なことではないかと思うのだがいかがだろうか。