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凍傷を防ぐ対策は?

長山協医科学委員,医師 浅野 功治

 凍傷とは、氷点下での寒冷暴露による、組織の氷結と末梢循環障害がもたらす、限局性の組織傷害です。手足および鼻や耳介が侵されやすい部位です。
 原因としては、寒冷そのものに加えて、寒冷時にこれらの部位への血流を減らす要因があります。例えば、体幹部の保温が不十分だと、熱を維持するため、手足の血管を収縮させて血流を減らし、その分を体幹部に送ります。すなわち手足が犠牲になるわけです。また、靴や衣類による締め付けも、血流を減らします。

 よって予防の基本は、上記の要因を除くことです。余裕のあるサイズの、良質な靴と衣類で、手足や頭部・顔面を保護するのは無論ですが、良質の中間着(筆者はヤッケの下に着られる薄手の羽毛服上下を愛用)で、上半身と下半身両方を保温することが重要です。随時行動食を口にして、産熱に努めることも大事です。手袋が凍ったり穴があいたりしたら、すぐに替え、靴ヒモやアイゼンバンドがきついと感じたら、すぐに調整しましょう。単純なことですが、これらのことを、どんな状況でもこまめに実行しましょう。
 筆者自身、恥ずかしながら、過去に4回指が凍傷になりました。いずれの受傷も、面倒くさがって上述の予防処置をおろそかにしていたか、あるいはできない状況に自らを追い込んでしまったことによります。なお、タバコは末梢血管を収縮させるのでいけません。飲酒は低体温の原因となるのでやはりいけません。また高所では、低酸素自体の影響で、より凍傷になりやすくなります。

 指が寒冷に暴露されると、まず血管が収縮しますが、5〜10分立つといくらか拡張し、血流が部分的に回復します。この回復反応は、身体が寒さに慣れた人では、より早く強くおこると言われています。耐寒訓練とまで大げさに考えずに、普段下界で少し薄着に慣れておくことは、効果あるかもしれません。
 昔からなされている、薬物による予防のひとつは、皮膚血管拡張作用のある、ユベラ軟膏(ビタミンEとA含)を局所に塗布することです。副作用がないかどうか、手足が本当に温かくなるかどうか、事前に下界で確認してからにしましょう。
 なお、以上のことは、前段で述べた現場での予防の重要度からすれば、あくまで補助的なものと考えて、過度の期待はしないでください。

 凍傷の典型的な初期症状は、冷たさに加わる痛みです。進行して凍結すると、患部は硬く蒼白となり、感覚は鈍りやがて無くなります。ただし、初期の痛みを全く感じない場合や、痛覚が失われないまま進行する場合もあるので、感覚の有無だけでなく、皮膚の性状(血の気の有無)も観察し、危険を感じる前に行動を止め、温める手立てを講じてください。(顔は相棒に見てもらいましょう)。常時自分の身体に気を配ることが第一です。凍傷予防は、冬山登山技術のひとつです。