Climbing Mate Club

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Chronicle

甲斐駒・赤石沢奥壁「左ルンゼ」

アックスイメージ
メンバー 馬目弘仁,笹森進也(碧緑山岳会所属)
日程 1997年2月22日〜24日
記録 馬目

冬季の左ルンゼは前々から登ってみたいと思っていたルートでした。

大学卒業間近の2月下旬ブンリンにつけで買ったソロイストはこのルートを単独で登るためのものでした。当時2万円以上もしました。気合いはいってたんだな〜あの頃も。

結局は出発の前夜からの記録的な大雪でアプローチもせずに敗退。こたつに入りながら行動食を食べ,助かったかな,とほっとしたのを覚えています。こういう時は失敗の理由が有り難いものですね。まあ左ルンゼは因縁のルートというところです。

22日 9:00 竹宇駒ヶ岳神社の駐車場出発

今朝は冬型が強まり松本は雪,この黒戸尾根も強い風でとても寒い。上の方は雪が舞っているようだ。ちょっと心配かな。雪も結構多く,新しいトレースがなければ7合目まで行き着けそうにない位。結局7時間もかかって7合目の冬期小屋に到着し,重荷で肩は痛いしもうヘトヘト。しかし小屋の中はとっても快適,先行の3人パーティーは明日は七丈爆だそうだ。こんな時期に入って死んでも知らんでえ。

23日 3:30起床〜5:30出発

ラジオの予報通り快晴,吹き溜まりは雪が深く頭に来るが,稜線はしっかり硬い。8合目から第1バンドを下降してゆく。夏と違いかなり急に感じる。ひざ上のラッセルで危なそうな雪面だ。途中から4Pスタカットで進む。気温はどんどん上がり,春山のような感じだ。『俺の求める冬山の状態じゃない!成功しちゃうとロクな記録にならないんだよ,知ってる?』(誰と誰の辞だか知ってます?)今回の合い言葉です。

左ルンゼ1P 9:00 笹森リード

ビレイ点は埋まっていた。夏でも分かりにくい取り付きからスタート。ライン取りも複雑で分かりにくく苦労している。途中フックが外れて3m程墜落,頼むぜ笹森選手!ピンとピンをつなぐ細かなフリーが難しいんだよねっ,冬期登攀はっ。デイジーチェーンを2つも使っているからハーネスのまわりがグチャグチャして大変そう,冬壁をすばやく登るコツは経験でつかむしかないからね。お互い頑張りましょう。

2P,馬目リード

幅50㎝位の細かい凹角状のベルグラをダブルアックスで10m位登りあとは快適なアイスクライミング。50mロープいっぱいまでラッセルで第2バンドを詰めてビレイ。完全に埋まっているのでハーケンで自作。それにしても暖かい。手袋がビショ濡れ,融雪がスノーシャワーとなって落ちてきていてヤな感じだ。只今12:00,ちょっと遅いね。鹿島槍の中央ルンゼでヒドイ目に遭ったのを思い出しどうするか考えたが,明日も快晴の予報だしビバークを覚悟して続行とする。

3P,笹森リード

水の滴るアンサウンドなフェースを左上。濡れながら苦労している。途中から日陰になったがその途端に見る見る全てが凍り付いてゆく。自分がフォローする番にはスリングやカラビナがガチガチだ。気温自体はけっこう低いことを実感。

4P,馬目リード

いよいよ流水溝に突入だ。ここからしばらく逃げ場が無くなるが,こう気温が低ければ大丈夫。まず微妙なトラバースで流水溝へ,想像していたより岩がむき出しになっているのでしばらく人工で登り,途中から左に垂れ落ちるベルグラをダブルアックスで進む。今回もブラックダイヤモンドの縦爪アイゼンで正解だったな。最後は不安定に溜まった雪をだましながらビレイ点に到着。う〜む。なかなかヤバカッタなあ。精神が張りつめ集中した後の脱力感と充実感,そしてまた一つ自分を確かめることが出来たという自信,これがあるから冬期登攀はやめられない。このピッチまででルートの核心は終わりだ。

16:00,今日中に抜けられそうなので気が楽になった。それにしてもいい天気だ。南アの特長はその手のプレッシャーが無い事だな。技術的な登攀に集中できるというのもそれはそれで楽しいものだ。

5P

次は深いラッセルを約35mでビレイ。

6P

氷の詰まったワイドクラックをダブルアックスで10m程登ってさらに2.7バンドを越え,チムニーの手前でワートホッグでビレイ。本来なら結構な岩登りのはずだがかなり埋まってしまっているので楽だ。テケテケである。

7P

ダブルアックスで快適にチムニーを越え,雪壁を詰める。ここで18:00,小休止にしてテルモスのコーヒーに感動す。鳳凰三山のシルエットが綺麗だな〜。

8P

ヘッドランプをつけて出発。ルンゼはさらに狭くなってゆく。雪崩が来たらイチコロだ!降雪中は非常にヤバイ!トポではF5のあるはずのチムニーも完全に埋まっている。

9P

10m詰めてから小岩壁の下をトラバースして灌木でビレイ。

10P

小さいスノーリッジを越えて快適な雪面を上がる。これにて左ルンゼルートは終了して中央稜に合流。笹森はだいぶ疲れたようだな。僕はといえば無風快晴の満月夜空に気分は最高!街のイルミネーションが綺麗だ。こんななら何回夜間登攀をやってもいいなあ。

中央稜は3Pのブッシュ登りでした。夏の時(自分の記憶)とは様子が違うので少し迷ってしまった。かなり右上気味に登るのがコツのようです。結果的には満月に助けられました。主稜線(縦走路)に抜けたのは21:00。お疲れ様でした。  稜線上は八合目までがちょっと急で分かりにくい。笹森はかなりお疲れのご様子なので注意を払いながらゆっくりめに下る。七合目の小屋には22:40頃に到着。ご苦労様でした。  次の朝7:40起床,10:30出発,長〜い黒戸尾根を下って駐車場に着いたのは14:30でした。

今回の左ルンゼ登攀はなかなか充実した楽しいクライミングでした。これで『ルンゼ』と名の付く冬期岩壁ルートは鹿島槍の中央ルンゼ,幕岩の西壁ルンゼ,とこれで3本目です。どれもなかなかに印象に残るクライミングだったなあ。さあ〜て,次は丸山の2ルンゼでも行こうかな?

〈使用装備のご案内〉

  • 9mm/50mロープ    ×2
  • ロックハーケン各種    ×5
  • ワートホッグ       ×2
  • スペクター        ×2
  • キャメロット №1/2 〜2 ×1セット
  • カラビナ         ×20
  • ボルトキット
  • スリング類        ×20
  • アブミ

*ピッケル,バイル,アイゼンはアイスクライミングに対応できるものが使いやすい